読み応え十分の捜索ドキュメント 

  • [2013/09/15 00:54]
読みたい本を入手するには、
買う」と「借りる」 2つの方法がありますが、
「買う」場合には、貯めたポイントうんぬんをはしょると、

定価で買う」か「古本を安価で買う
のどちらかを選択することになります。

両者を比べると、明らかに古本の方がお得で、基本的に本(特に小説の類)は一度きりしか読まない。という私は、古本で済ますことが多いです。
しかし、あえて本を定価で買う場合も度々あり、それには理由があって、鉄則という程ではないのですが、自分の中で一定のルールを決めています。

画集写真集は、新しく、綺麗なものを。絶版・廃刊など、やむを得ない場合を除いて定価で買う
②定価と古本の値段の価格差が、単行本でだいたい200円位、文庫本でだいたい100円位だったら、綺麗な新品を買う(その時の気分や作品によって妥協点がゆらぎます)
③資料として価値がある本や名作など、読み終わった後にも恐らく何度か手に取るであろう本は新品を買う

そして
自分が好きな作家への敬意を表し
自分が支払ったお金の何分の一かが、出版社を通じて、印税として 
きちんと作家に届けられる(支払われる)ために、定価で買う
(自明のことですが、古本を買った場合、作家にお金は渡りません)

さて、現在私には、「この作家(著者)の本は、絶対に定価で買う 」という作家が二人います。

一人は、TBSドラマ「半沢直樹」の原作者で飛ぶ鳥を落とす勢いの池井戸潤 氏。
氏の作品との初めて出合いは、トラックのハブ破損が原因でタイヤが脱落し、横浜の母子3人が死傷する事故が起き、後に自動車会社の組織的なリコール隠しが判明した事件を取り上げた小説

空飛ぶタイヤ

フィクション以上にノンフィクション本が好きな私にはたまらない
一応フィクションとして発表されているけれども、極めてノンフィクションに近い作品です。

数年後には、皆さんご存知のように

下町ロケット』で直木賞を受賞しましたね。以後、新作は、ほぼ全てを購読しています。
池井戸作品の魅力は、何と言っても勧善懲悪、ハッピーエンド(もしくは希望を残してのエンディング)でしょうか。もちろん、描かれる業界の裏側を垣間見る面白さや、苦悩し、時には挫折しかかった主人公が、時の運や仲間を味方につけて、問題を解決していく爽快さというのもあります。次作では、どんな業界を描く予定なのか、非常に楽しみにしています。

そして、私が絶対にその本を定価で買うという作家、二人目は、
六草いちか 氏。今回のブログ記事の本題は、氏の新作紹介です。

それからのエリス

氏は2年前、知る人ぞ知る功績をあげました。
森鴎外の『舞姫』のエリスのモデルとなったベルリン時代の鴎外の恋人が誰であるかを特定したのです。

鴎外の恋~舞姫エリスの真実』にて発表されました。

それまで、何人もの研究者、作家らによって 他の人物がエリスであるという説が唱えられ、本も出版されてきましたが、証拠が不十分であるという感は否めず、また、強引な推論により結論づけられている場合も見うけられました。
しかし、ドイツ在住のライター:六草いちか氏は、連日 地道な調査を重ね、数ある教会の中から ある古い教会の洗礼記録などから人物を特定。過去に名前の挙がったことのなかった女性:
エリーゼ・ヴィーゲルトが『舞姫』のエリス・ワイゲルトのモデルであると結論付けました。
この反響は大きく、森家(鴎外の子孫)の方々にも、恐らくこれが真相であろうと、好意的に評価されたようです。
(参考:森千里著 『鴎外と脚気~曾祖父の足あとを訪ねて』)

あれから2年半後の9月4日に上梓された『それからのエリス』、実は私は出版に先んじて新聞に掲載された
エリーゼの40代~50代初めのころの写真とそれに関する記事を見て、前作の続編が出たことを知ったのです。
当然ながら、すぐに買って読みました。

エリーゼの実像に迫る六草氏の奮闘ぶり、紆余曲折を綴った、
いわば、エリーゼ捜索ドキュメント。(池井戸作品に通ずるものがあります)

本作で、エリーゼが日本からベルリンに戻った後に辿った人生、家族、終焉の地などが明らかになります。
六草氏はエリーゼの親族を見つけ出し、エリーゼの遺品と共に、写真も見せてもらい、お話を伺いました。
六草氏の粘り、根気に脱帽です

さらに氏は、前述の森千里さん(鴎外の長男のお孫さん)や、三男のご子息と交流し、千葉の別荘に足を運んだことをつまびらかにし、また現地の日本人建築家の協力を仰いで、鴎外のベルリンでの3件目の下宿先の部屋の位置を推論し、鴎外作品や子供たちのエッセイを読み込んで、別の人との結婚を決断した鴎外とエリーゼそれぞれの心情にまで迫ります。

もともと私は、鴎外の長女 森茉莉の作品が好きになり、
(参照サヴァラン好き~その1
それがきっかけで父親としての森鴎外に興味を持ち、さらに若き日にエリーゼと別れざるをえなかった あの時の苦い記憶と心の傷をいつまでも癒せずにいた鴎外の悲しみに、何故か関心が向くのです。

一人の作家の人生をたどるだけではなく、作品だけでは読み取れない部分をまでも知り尽くしたいと思う作家は、
森鴎外ただ一人。

六草氏のエリーゼ捜索ドキュメント、果たして次回作はあるのでしょうか?
これだけ多くのことが明らかになった今、さらに新事実を発見するというのは相当に難しいだろうと想像します。

それでも、気長に待ちたいと思います。そして、出版された暁には、
必ず定価で購入いたします(古本には手を出しません)。
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